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《新刊書籍刊行のご案内》 

  ―山上弘道著『日蓮遺文解題集成』刊行にあたって―
                    〔序文より抜萃〕


 日蓮はその生涯において著述・書状・要文集・写本等々、実に多くの文献を精力的に執筆し残した。それを門下は「聖教」「御筆」「御書」等と称して大切に保管し、あるいは筆写して後世に残すことに務めた。今日「日蓮遺文」として数多く伝来するゆえんである。ところがその一方で、その膨大な日蓮遺文の中には、日蓮滅後に日蓮に仮託して偽作された、いわゆる偽撰遺文が数多く含まれており、それは日蓮の等身大の思想と行動を知る上で、大きな妨げとなる。
 本書はそうした状況を踏まえて、第一の目的として、今日伝来する日蓮遺文一編一編に、できうる限り丁寧に考察を加えた上で、真撰・偽撰の分類を目指した。その結果本書で取り上げた573編の遺文中、「第Ⅰ類 真撰遺文」が398編、「第Ⅱ類 真偽未決遺文」が30編、「第Ⅲ類 偽撰遺文」が145編という分類結果となった。……
 本書が目指したもう一つの課題として、系年の問題があげられる。右の真撰と判断した遺文について、各解題の末尾に「系年」の項を設け、その成立について従来の諸説を紹介した上で、あえてそれにとらわれず、その遺文の内容、および周辺状況等に目を配りながら考察を加えた。その結果従来の系年説を否定し、本書独自の系年を示した遺文が相当数ある。その理由は各項に一々に示しているので、是非とも一読を乞う。……
 まず「第Ⅰ類 真撰遺文」について大まかながら解説すれば、特筆されるのは、日蓮の直筆(真蹟と称される)が数多く現存することである。本書目次に示されている「真蹟」の欄を見れば一目瞭然、首尾が完結する「完存」が106編、部分が現存する「断存」が123編、弟子との共著である「共存」が6編、本文は門下が書き、それに日蓮が署名・花押を付した「署名・花押」「花押」と表記しているものが3編で、その総数は238編に及び、真撰遺文全体の約6割に及ぶ。………。
 また真蹟は現存しないものの、忠実な模写本(「模本」と表記)が6編、各目録や『延山録外』等によって、曾て真蹟が存在したことが具体的に記録・確認される遺文、すなわち「曾存」が44編あり、それを真蹟現存に準ずるものとして数えれば、約7割となる。
 そして注目すべきはこれら真蹟現存・曾存遺文は、建長5年(32歳)前後に系けられる〔Ⅰ2〕『戒法門』から、最晩年の弘安5年3月21日に系けられる〔Ⅰ397〕『稲河入道殿御返事』に至るまでほぼ間断なく見られることで、ことに文永5年以降は豊富で、最も少ない文永5年が5編、一番多い文永12年(建治元年)など28編を数える。このことは、日蓮の思想形成の状況を、ほぼ真蹟現存・曾存の遺文によって推知できることを意味している。
 その真蹟現存・曾存遺文を基準として、写本によって伝来する遺文について、様々な観点から真偽を考察した結果、真撰と判断された遺文は110編にのぼった。かくして本書では真撰遺文は398編となったのである。……
 次に「第Ⅲ類 偽撰遺文」は145編の多きに至った。偽撰遺文と判断する根拠は種々あるが、内容的に史実との齟齬があることや、教義内容が真撰遺文と著しく乖離していることなどを中心に、使用される用語の問題や、伝来の問題等々にも目を配り、私なりに丁寧に示したつもりである。
 また偽撰遺文は単独ではなく、関連させつつ複数作成されている場合も多く、本書では大まかながらそうしたことを念頭において、配列し論じているので、読者諸氏にはそうしたことを意識しつつ読み進めていただければと思う。………
 この偽撰遺文群に関して、特に強調しておきたいことがある。右拙論でも強調したことだが、これら偽撰遺文はけっして負の産物とのみ捕らえるべきではない。作成された理由はさまざまあろうが、その背景をできうる限り追求し精査することによって、その当時日蓮門下がどのような問題を抱え、どのような議論を展開し、どのようなことを指向していたか等々の、貴重なことがらが見えてこよう。そのような観点からここ数年、「日蓮偽撰遺文学」の確立を提言してきたのだが、改めてここに145編の偽撰遺文を提示するとともに、今後さらに様々な観点から研究が進められ、「日蓮偽撰遺文学」が進展して行くことを切望する。……
 日蓮の全遺文に解題を付すことを志したのは、平成5年発刊の『興風』第8号から執筆を開始した、拙稿「日蓮大聖人の思想」の準備をしていた頃であるから、もう30年以上の歳月が経過した。私家版としては同論を書き終えた平成16年頃には、あらかたできていたのであるが、その内に、できうることならばこれを世に問うて、真偽問題や系年の問題を議論するたたき台にでもなればと思うようになった。以来私なりに精進してきたつもりであるが、やればやるほど奥が深く、月日はあっという間に過ぎてしまった。まだまだ未成熟であることは十分承知しているが、一端この辺で区切りを付けて出版することを決意した。日蓮遺文研究に一分なりとも役立つことがあれば幸いである。(以下略)



 
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